東京地方裁判所 平成3年(ワ)3724号 判決 1992年7月20日
原告
大場忠太郎
右訴訟代理人弁護士
三原一正
被告
青木俊江
右訴訟代理人弁護士
渡辺興安
被告
平田博
主文
1 被告らは原告に対し、別紙物件目録一記載の建物を収去して別紙物件目録二記載の土地を明渡せ。
2 被告らは原告に対し、昭和六三年七月二〇日から右土地明渡ずみに至るまで一か月金九五〇〇円の割合による金員を支払え。
3 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一 申立
一 請求の趣旨
1 被告らは原告に対し、別紙物件目録一記載の建物を収去して別紙物件目録二記載の土地を明渡せ。
2 被告らは原告に対し、昭和六三年七月二〇日から右土地明渡ずみに至るまで一か月金九六〇七円の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 被告青木俊江
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
2 被告平田博
原告の請求を棄却する。
第二 主張
一 請求原因
1 原告は大場甚吉に対し、別紙物件目録二記載の土地(以下「本件土地」という)を次の約定で賃貸した(以下「本件賃貸借契約」という)。
(一) 目的 木造建物所有
(二) 賃貸借期間 二〇年
(三) 賃料 一か月金五九三七円
(四) 特約 賃借人が本件土地の賃借権を譲渡または転貸し、もしくは賃借権を担保に供し、賃借地上の建物を第三者に譲渡するときは、事前に賃貸人の書面による承諾を得ること。
賃借人が賃料の支払を怠りその額が二か月分に達した場合または契約条項の一にでも違反した場合、賃貸人は何らの通知催告を要することなく本件契約を解除することができる。
2 大場甚吉は本件土地に別紙物件目録一記載の建物(以下「本件建物」という)を建築してこれを所有していたが、昭和六〇年四月二四日に死亡したため、被告青木俊江が大場甚吉を相続し本件賃貸借契約の賃借人の地位を承継した。
3 しかるに、被告青木俊江は、昭和六三年六月一〇日、被告平田博に対し本件建物を譲渡し、被告平田博は東京法務局世田谷出張所昭和六三年六月二五日受付第三一三六三号をもって譲渡担保を原因とする所有権移転登記を了している。
したがって、被告青木俊江は被告平田博に対し、原告に無断で本件土地の賃借権を譲渡したものである。
4 また被告平田博は昭和六三年六月一〇日以降本件建物を所有して、本件土地を占有するとともに、平成二年三月末頃から平成三年三月末頃まで斎藤裕美に対し、本件建物を賃料一か月金二〇万円で賃貸し、その後も他に賃貸している。
5 そこで、原告は被告青木俊江に対し、昭和六三年七月一九日、本件建物の無断譲渡を理由として本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
仮に、右契約解除の意思表示が効力を生じないとしても、原告は被告青木俊江に対し、平成三年一二月一四日、本件契約を解除する旨の意思表示をした。
6 また、被告青木俊江が平成元年九月分以降平成二年七月二七日までの賃料を支払わないので、原告は被告青木俊江に対し、平成二年八月末頃、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたが、なお被告青木俊江が平成元年九月分以降の賃料を支払わないので、原告は被告青木俊江に対し、平成三年四月一二日、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。さらにまた、被告青木俊江が平成三年四月分以降の賃料を支払わないので、原告は被告青木俊江に対し、同年七月三一日、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
7 本件土地の昭和六三年七月二〇日以降の相当賃料額は一か月金九六〇七円である。
8 よって、原告は被告らに対し、本件建物を収去して本件土地を明渡すこと及び被告青木俊江に対し賃貸借契約終了の日の翌日である昭和六三年七月二〇日から、被告平田博に対し本件土地の占有開始後である前同日から、いずれも本件土地明渡ずみに至るまで一か月金九六〇七円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告青木俊江の認否
1 請求原因1の事実中、原告が大場甚吉に対し、本件土地を賃貸借期間二〇年の約定で賃貸した事実は認めるが、その余の事実は知らない。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実中、被告平田博が、昭和六三年六月二五日、本件建物につき譲渡担保を原因とする所有権移転登記手続を了している事実は認めるが、その余の事実は否認する。
右登記は被告青木俊江の夫である青木功助及び被告平田博が被告青木俊江の承諾を得ないまま被告青木俊江の印鑑を冒用してしたものである。
4 同4の事実中、被告平田博が斎藤裕美に対し、本件建物を賃貸した事実は認めるが、その余の事実は否認する。
5 同5の事実は認める。
6 同7の事実は否認する。
三 被告青木俊江の抗弁
1 仮に、原告主張のごとく、被告青木俊江が被告平田博に対し本件建物を譲渡したものであるとしても、右譲渡は青木功助の被告平田博に対する債務を担保するために譲渡担保としてなされたものに過ぎないから、本件土地の賃借権を被告平田博に譲渡したものというべきではない。したがって、原告の本件賃貸借契約解除の意思表示は効力を生じない。
2 また仮に、被告青木俊江が本件建物の譲渡により被告平田博に本件土地の賃借権を譲渡したものであったとしても、被告青木俊江は現在被告平田博に対し前記所有権移転登記の抹消登記手続を求めるべく準備中であり、被告青木俊江と従兄妹の関係にある原告は、右事情を知悉しているから、右賃借権の譲渡は原告との信頼関係を破壊するものではない。
3 被告青木俊江は平成二年九月六日に平成元年一〇月分から平成二年九月分までの賃料合計金一一万四〇〇〇円を、平成三年三月一五日に平成二年一一月分から平成三年三月分までの賃料合計金四万七五〇〇円を、平成四年一月一〇日に平成三年四月分から平成四年一月分までの賃料を、それぞれ東京法務局に供託している。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の主張は争う。
2 同2の事実中、原告が被告青木俊江と従兄妹の関係にあることは認めるが、その余の事実は否認する。
第三 証拠<省略>
理由
一<書証番号略>、証人青木功助の証言、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、原告は大場甚吉に対し、本件土地を賃貸借期間二〇年、木造建物所有の目的、賃料一か月金五九三七円、賃借人が賃借権を譲渡または転貸し、もしくは賃借権を担保に供し、賃借地上の建物を第三者に譲渡するときは事前に賃貸人の書面による承諾を得ること、賃借人が賃料の支払を怠りその額が二か月分に達した場合または契約条項の一にでも違反した場合、賃貸人は何らの通知催告を要することなく本件賃貸借契約を解除することができる旨の約定で賃貸したこと、大場甚吉は本件土地に本件建物を建築してこれを所有していたが、昭和六〇年四月二四日に死亡したため、被告青木俊江が大場甚吉を相続し本件賃貸借契約の賃借人の地位を承継したこと、しかるに、被告青木俊江は夫青木功助の被告平田博に対する債務を担保するため、原告の承諾を得ないまま、昭和六三年六月一〇日、被告平田博に譲渡担保として本件建物を譲渡し、被告平田博は東京法務局世田谷出張所昭和六三年六月二五日受付第三一三六三号をもって譲渡担保を原因とする所有権移転登記を了していること、被告平田博は昭和六三年六月一〇日以降本件建物を所有して、本件土地を占有するとともに、被告青木俊江の了解の下に当時の本件建物の賃借人から賃料を受領し、また平成二年三月末頃から平成三年三月末頃までは有限会社旭不動産を介し自ら斎藤裕美に本件建物を賃料一か月金二〇万円で賃貸し、その後も佐竹久良太に本件建物を賃貸してそれぞれ賃料を受領するなどしていたこと、他方被告青木俊江は本件建物を譲渡担保として被告平田博に譲渡した後、被担保債務を弁済するなどの措置を講じないままこれを放置していること、被告青木俊江及び青木功助は右債務を弁済するだけの資力を有していないこと従って本件建物の所有権を回復することは極めて困難であること、そのため、原告は被告青木俊江に対し、被告青木俊江の被告平田博に対する本件建物譲渡が前記特約に違反するものであるとして、昭和六三年七月一九日、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたが、右契約解除の意思表示が効力を生じない場合のあることを考え、さらに、平成三年一二月一四日、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと、以上の事実が認められる。
しかして、右認定事実によれば、被告青木俊江は夫青木功助の被告平田博に対する債務を担保するためとはいえ、原告の承諾を得ないまま、被告平田博に譲渡担保として本件建物を譲渡したものであるから、被告青木俊江の右行為は第三者への建物の譲渡を禁止した原告と被告青木俊江間の前記契約条項に違反するものといわなければならない。
二被告青木俊江は、仮に、被告青木俊江が被告平田博に対し本件建物を譲渡したものであるとしても、右譲渡は青木功助の被告平田博に対する債務を担保するために譲渡担保としてなされたものに過ぎないから、本件土地の賃借権を譲渡したものとはいえない旨主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、被告平田博は被告青木俊江から本件建物の所有権移転登記を了した後、当時の賃借人から賃料を受領し、次いで有限会社旭不動産を介し自らこれを他に賃貸して賃料収入を得ているのに対し、被告青木俊江らは本件建物を譲渡担保として被告平田博に譲渡した後、被担保債務を弁済するなどの措置を講じないままこれを放置するなどしており、また被告青木俊江及び青木功助は右債務を弁済するだけの資力を有さず従って本件建物の所有権を回復することは極めて困難な状況にあるが、かかる事実に鑑みると、被告青木俊江において、青木功助の被告平田博に対する債務の弁済等により容易に被告青木俊江と被告平田博間の本件建物にかかる譲渡担保契約を終了せしめ得ること等特段の事由を主張立証しない以上、被告青木俊江の被告平田博に対する本件建物の譲渡は、原告と被告青木俊江間の本件賃貸借契約の特約にいう本件建物の第三者への譲渡または土地賃借権の譲渡に該当するものといわざるを得ない。
したがって、原告の承諾を得ることなくなされた被告青木俊江の被告平田博に対する本件建物の譲渡は右特約に違反するものというべきである。
次に、被告青木俊江は、被告青木俊江の被告平田博に対する本件建物の譲渡により本件土地の賃借権が譲渡されたものであったとしても、被告青木俊江は現在被告平田博に対し前記所有権移転登記の抹消登記手続を求めるべく準備中であり、被告青木俊江と従兄妹の関係にある原告は右事情を知悉しているから、右賃借権の譲渡は原告との信頼関係を破壊するものではない旨主張し、<書証番号略>には、昭和六三年八月一日当時、被告青木俊江は被告平田博に対し前記所有権移転登記の抹消登記手続を求めるべく準備中であるかの如き記載が存し、また証人青木功助の証言中にも右主張にそう供述が存するけれども、本件全証拠を精査するも今日に至るまで被告青木俊江または青木功助が右手続をとり、または近く右手続をとろうとしている事実を認めるにたる的確な証拠は存しないから右記載ないし供述は到底信用することができない。したがって、被告青木俊江の右抗弁はその余の点につき検討するまでもなく理由がない。
三以上の次第であるから、原告が被告青木俊江に対し昭和六三年七月一九日にした本件賃貸借契約解除の意思表示は理由があり、したがって、右契約は既に終了したものというべきである。そしてまた被告平田博は本件建物を所有して本件土地を占有する権限を有することを主張立証しないから、被告らに対し本件建物を収去して本件土地の明渡を求める原告の本訴請求は理由がある。
四そして、<書証番号略>に弁論の全趣旨を総合すれば、本件土地の昭和六三年七月二〇日以降の相当賃料額は一か月金九五〇〇円を下回らないことが明らかであるが、一か月金九五〇〇円を超えることを認めるにたる的確な証拠はないから、被告らは原告に対し、昭和六三年七月二〇日から本件土地明渡ずみに至るまで一か月金九五〇〇円の割合による賃料相当損害金を支払う義務がある。
五よって、原告の本訴請求はいずれも右理由のある限度でこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官福井厚士)
別紙物件目録一
所在 別紙物件目録二記載土地
家屋番号 一二二五番一の二
種類 居宅
構造 木造ストレート葺二階建
床面積 一階33.25平方メートル
二階31.39平方メートル
別紙物件目録二
所在 東京都世田谷区大原二丁目一二二五番一
地目 宅地
面積 559.73平方メートル
右土地の内、別紙図面アイウエアの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分50.98平方メートル